数百人のエンジニア組織から、20人のAI Native組織へ
大企業の合理性(四半期予算・厚い意思決定層)こそが変化阻害要因。全領域をAI前提で再構築し、アイデアから1日でMVPが動く体制へ。
宇佐美ゆう(STRACT)
1. 米国スタートアップ2社、CircleCI、freee…これまで歩いてきた道
キャリアの始まりは米国ニューヨークのスタートアップでした。スタートアップ全盛期の米国で、熱狂の中心地はもちろんサンフランシスコでしたが、ボストンと並んでニューヨークも独自の活気があり、そうした場でキャリアの最初期を過ごせたことは、いまの私の感覚の土台になっています。クラウド環境での運用、IaCによる構成管理、Kubernetesを基盤としたサービスの運用といった、いまでこそ当たり前になっている技術ですが、当時としては早い段階で導入を進めることができ、これは大きな糧になっています。また小さな組織であるからこそ、インフラからデータベース、バックエンドからフロントエンドまで基本的に必要なことは全て自分でやるのが当たり前、ということを体で覚えました。
その後はサンフランシスコのY Combinator出身スタートアップを経て、CircleCIへと移り、世界中の開発者が使うCIプラットフォームの設計開発に携わりました。Staff Engineerとして複数のステークホルダーが関わる複雑なプロジェクトを推進するなかで、Individual Contributor(IC)として価値を出すには、コードをうまく書けるだけでは足りないと痛感しました。人やチーム、組織をどう巻き込んでいくかこそが、一定以上の規模で仕事をするときの鍵になる、ということを学んだ時期です。freeeに転職した後は、Principal Architectとして数百人規模のエンジニア組織のなかで、大規模ユーザーを抱えるマルチプロダクトシステム全体の設計、PubSubを用いた非同期・結果整合を前提としたサービス間連携の推進、そしてAIエージェント基盤の設計開発を担いました。
振り返ると、私はキャリア初期から複数のスタートアップに関わっていたのですが、正直に書いておくと、Exitを経験できたものはひとつもありません。
2. Q単位で動く世界、半年前に決まる予算
数百人のエンジニアが在籍する組織には、組織を動かすための仕組みがあります。それは整っていて、合理的で、長く積み上げられてきたものです。ただ、その合理性は組織を支える時間軸の上に立っていて、変化が1年単位ではなく1ヶ月単位、もっと言えば1日単位で起きる時代には、明らかに長すぎると感じるようになりました。
たとえば、新しいAI関連のサービスを試したくなる場面があります。ところが予算は半年前に確定しているのが通例で、AI用に確保していた分も早々に枯渇することは珍しくありません。新しく獲得するには次の予算サイクルを待つか、別の予算を融通してもらう調整に入ることになりますが、後者も一筋縄ではいきません。気軽に試す、繰り返して検証する、よければ小さく導入してみる。そういう動きが思うように取れないのです。人の配置についても似たような構造があり、何か新しい仕組みを作るためにエンジニアを動かしたくても、組織変更は次のQまで待つ必要があります。すべてが3ヶ月単位で動くため、突発的に大きな取り組みを差し込む余地は構造的に少ないのです。
ここで誤解されたくないのですが、これは私の前職に限った話ではなく、規模が大きな組織が共通して抱える構造の話です。私の前職においても、組織のトップがAIに対して鈍感だった、ということはまったくありません。むしろ、経営層はAIにベットすることの重要性を非常に深く理解していました。それでも、数百人規模の組織は簡単には方向を変えられません。組織を動かす仕組みが、経営の意思とは別に働いているような印象でした。
それを最も痛感したのは、AI基盤のような、本来であれば最も厚く人を張るべきプロジェクトに対しても、必要な人数を一気に集められない場面でした。重要性は誰の目にも明らかで、議論の方向もそろっているのに、四半期の人員計画と予算サイクルに阻まれて、立ち上がりが遅れていく。一つひとつの判断は合理的なのに、合計するとスピードが出ない。大組織が抱える独特の難しさが、そこにありました。
確かに、こうした仕組みは組織の安定を支えています。仕組みがあるからこそ、数百人のエンジニアが歩調を合わせて動けるのも事実です。私自身も大組織の合理性に多くを支えられてきました。それでも、変化のスピードに対して構造が追いつかない感覚は、日に日に強くなっていきました。
3. Coding Agentが来たあとの世界で、勝てる組織は何か
2025年、Coding Agentの能力が想像していたペースを超えて伸びました。コードを書くこと自体が人間の主たる仕事ではなくなっていく、という感覚を、多くのエンジニアが共有したのではないかと思います。
私はそこで、ひとつの仮説を持つようになりました。これからの時代、勝つのは「少数で大企業並みの成果を出せる組織」だけだ、というものです。ただ、これを実現するには、コードを書くところを自動化するだけでは足りません。要件定義、レビュー、QA、デプロイ、運用、それから経理や営業のオペレーションといった、プロダクトの周辺にある業務フロー全体を、AIを前提に作り直す必要があります。出来上がっていた業務フローをいったん捨てる必要があり、それどころか、会社組織としての在り方を根本から考え直すくらいの覚悟が要る、というのが私の見立てでした。
ここで、章2に書いた構造の話に戻ってきます。Q単位の予算サイクル、3ヶ月先まで埋まったロードマップ、層の厚い意思決定プロセスは、大組織を支える資産であると同時に、根本からフローを作り直そうとする動きには厚い壁になります。私は前職で、その壁の前で何度か立ち止まりました。
4. カジュアル面談だけのつもりでした
STRACT代表の伊藤を紹介してもらったのは、知人経由でした。当時、私は転職するつもりはまったくなく、それでも一度だけ、カジュアル面談ということで話を聞いてみることにしました。話し始めて数十分でSTRACTに強く興味を持ち始めたことを覚えています。
カジュアル面談で「PLUG」と、それらの目指す世界観に興味を持ちました。
伊藤の凄みは、いくつかの層に分かれています。一つは、エンジニアとしての勘所の良さです。細部にこだわることがプロダクトの質を決めることを理解していて、実際に手を動かして実践しています。もう一つは、これまでに複数の事業をExitさせてきた事実で、エンジニアとしての優秀さと、ビジネスセンスの高さがここまで両立している人を、私はほとんど知りません。
そして決定的だったのは、AI時代に対する見立てがほぼ完全に重なったことです。
「これからの時代、プロダクトセンスが一番重要になる」「少数でAIを使いこなす集団が一番強い」
伊藤とこの二つの点で意気投合しました。前職で考えていたこと、やろうとしていたことが、すでに別の場所で、代表自身の手によって本気で始まっていたのです。しかも組織は20人ほどで、私が思い描いていた理想的なサイズでもありました。
加えて、もう一つ私の心を動かしたのが、伊藤が語ったSTRACTの長期的なビジョンです。いまのプロダクトの先に、次世代のインフラや衛星通信事業を手掛けたいという壮大な計画がありました。それを聞きながら、私は宇宙産業で働くことを夢見ていた頃を思い出し、胸が躍りました。
オファーをもらって、ほぼ即決しました。論理的にも、直感的にも、ここに行かない選択肢は私のなかにありませんでした。
5. 今さらまたスタートアップ、しかも20人
周囲に話したとき、いくつか似た反応をもらいました。「今さらまたスタートアップ?」「まだ広く知られたアプリではないよね」「20人規模で大丈夫なのか」。どれも、もっともな指摘だと思います。
先ほど書いたとおり、私はキャリア初期からスタートアップに関わってきたものの、Exitを経験できたものはひとつもありません。もちろん、スタートアップの成功率から考えれば、それ自体はおかしなことではありません。時流のような、自分たちではコントロールできない要素も大きく関わってきます。ただ、Exitさせるだけの力が足りなかったことが、ずっと心残りとしてありました。
だからこそ、今度こそ自分の力でスタートアップを成功させたいと考えています。しかも、いまはAIによって時代の前提そのものが変わろうとしているタイミングです。
加えて、STRACTには事業面でも具体的な裏付けがあります。AIショッピングアプリ「PLUG」はMAU100万人を超え、年間GMVは100億円規模で、年間収益は2年連続で300%以上の成長を続けています。これまでの累計調達額は20億円を超え、対象とする国内物販EC市場は15兆円規模です。20人ほどの組織が、これだけのユーザーと事業規模を抱えながら、なお伸び続けている。この状態自体が稀有だと感じています。
小規模であること、すでに多くのアクティブユーザーがいること、対象のマーケットサイズが大きいこと。この三つが揃った会社で、AI Native化を本気でやり切れるタイミングに関われることは幸運でしかない、というのが正直な感覚です。
6. 組織を作り直していく、その手応え
入社してまだ間もないですが、いくつかの実感があります。
たとえば、私が入ってから、開発はAIを前提とした形に大きく置き換わりました。AIハーネスの仕組みづくりも、アイデアが出てからMVPが動き出すまで1日と経たずに到達しています。大きな組織であれば同じ判断と実装に数ヶ月かかるであろうものが、ここでは「やりましょう」と決まった次の日には実物が動いています。意思決定が早く、誰が決めるかも明確で、大胆な変更をその場で取り入れられる。その速度が、私が関われる領域をプロダクト開発だけでなく、組織のあり方そのものにまで広げてくれています。自分の手で会社組織を再構築していけている感覚があります。
組織としての動き方は、いまもとにかく試行錯誤です。場合によっては月単位でやり方を見直しながら、あるべき形を探っています。「AI Nativeな組織はどう動くべきか」というのは、世界でもまだ誰も答えを出していない問いです。だからこそ、実験を繰り返せること自体が、いまのSTRACTの大きな強みだと感じています。
その試行錯誤を支えているのは、隣にいる人たちの強さです。
ビジネスサイドにはYahoo!出身の責任者が在籍し、エンジニアサイドにもYahoo!出身のメンバーがいて、既存のECを本気で超えにいく意志が、組織の真ん中にあります。実装力の強いエンジニアが揃っていることも、AI前提の開発に一気に舵を切れる土台になっています。20人ほどの組織ですが、一人ひとりが担う領域の広さと深さは、私が経験してきた数百人規模の組織にも引けを取りません。
もう一つ実感しているのは、組織全体に「AI Native化しなければ」という空気が共有されていることです。コードを書く部分はすでに大幅に自動化が進んでおり、いまは「PLUG」専用のAIハーネスを構築し、AIが高速に自動開発を回していくための基盤整備を進めている最中です。バックオフィスにも手が伸びていて、経理や営業のオペレーションも、AIが実行して人間が承認するモデルへの移行が始まっています。最終的には、人はissueを起こしてプロダクトについての議論を深めることに時間を使い、それが自然にプロダクトと組織運営に反映されていく。そういう状態を作りたいと考えています。
7. 最高のAI Native組織を、ここで作る
私はいま、自分のキャリアのなかで一番面白い場所にいると感じています。時代の見立て、組織のサイズ、プロダクトの伸び、隣にいる人たちの強さ、そして代表が描く長期のビジョン。どれを取っても、これ以上の組み合わせを私は思いつきません。
私たちが目指しているのは、3年後に30人ほどの組織で、数百人規模の会社に匹敵するプロダクトアウトプットを出しながら、いまの10倍のGMVを扱えるようになっている状態です。組織の人数を増やすことで成果を出すのではなく、AIをフルに使いこなす少数精鋭で、桁違いのスケールを取りにいく。これが机上の理想ではなく、いまの数字と組織のかたちから地続きで届きうるところに、STRACTの面白さがあります。
もしこの文章を読んで、何か引っかかった方がいれば、一度お話しさせてください。AI Native組織を本気で作ってみたい方、最高に面白い挑戦がしたい方からのご連絡を、楽しみに待っています。