AI Nativeな組織OSをどう作るか ーHR Enabling部を立ち上げましたー
HRを Identity / Activity / Intelligence の3層で再定義し、マネージャーのスパン上限をAIで突破する。LayerX「HR Enabling部」の設計思想。
宮本純弥(LayerX)
はじめに
こんにちは、すべての経済活動をデジタル化したいLayerXの宮本です。 これまでバクラク事業部の開発組織のHRBPグループのマネージャーを務めながら、全社の採用企画のマネージャーとして、採用領域のAI推進に取り組んできました。
おかげさまでLayerXは多くの新しい仲間を迎え入れることができ、組織は急拡大を続けています。
一方で、一般的には組織が拡大すると「調整が増えてスピードが遅くなる」「カルチャーが薄まる」「組織の拡大スピードと事業の拡大スピードが両立しなくなる」といった組織マネジメントに関する負の側面が見られます。
「バクラク」や「Ai Workforce」といったAI SaaSを通じて業務プロセスの変革を提供する私たちだからこそ、自分たちの組織そのものをAIによって進化させていくために、この10月から「HR Enabling部」を立ち上げました。
これまでSales領域では「Sales Portal」という内製プロダクトを開発し社内向けの改善に取り組んできましたが、HR領域でも採用に限らず組織全体をEnablingする取り組みを進めていきます。
この記事では、HR Enabling部として描くAIと組織マネジメントの未来について書きます。
事業に集中するための摩擦を解消する
組織が拡大するプロセスにおいて、どこかに必ず摩擦が発生します。
- 入社時の大量の手続きと、権限付与待ちのアイドルタイム
- 「この資料やマニュアルはどこ?」とSlackで聞き回り、たらい回しに費やされるオンボーディング
- 半期に一度、記憶を振り絞って「やったこと」を書き出す評価シート
- メンバーの状況把握と事実確認だけで終わってしまう1on1
これらは全て、本質的には「事業価値」につながる時間ではありません。
また、HR内においても人事データが分断されていることによって、事業に資するためのデータ抽出・分析に手間がかかります。
- 採用オファー時の評価・期待値
- 異動・評価・休職などの履歴
- 勤怠・Slack・パルスサーベイなどのアクティビティ履歴
HR Enabling部は、採用・入退社・オンボーディング・育成・評価・異動などのHRプロセスにまつわる領域のオペレーションおよびデータ・AIの利活用を通じて、事業成長に集中できる環境作りをミッションとします。
それはつまり、AI Nativeな組織OSを開発することであると考えています。
Ripplingが実現している統合データ基盤
Ripplingは、人事・IT・経理といったバックオフィス業務を、一つのシステムで統合・自動化するクラウドサービスを提供している企業です。
HCM Software That Makes HR More Strategic | Rippling
一般的に多くの企業では、従業員に関するデータはサイロ化しているのではないでしょうか。LayerXでも、採用管理は「Talentio」、労務・人事評価管理は「SmartHR」、営業活動は「Salesforce」、開発は「GitHub」、コミュニケーションは「Slack」、ドキュメント管理は「Notion」など、挙げればキリがありません。
その結果、マネージャーがメンバーの活動を知るためには、さまざまなツールにログインし、情報を継ぎはぎする必要があります。
Ripplingは「Unified Data」を掲げ、従業員データをあらゆる業務システムの共通言語とする設計思想を持っています。「Employee Graph」と呼ばれる単一のデータベースの上で、あらゆるアプリケーションが動作する仕組みです。例えば以下のようなことが実現できます。
- 入社してからXX日後、異動が発生したXX日後をトリガーに、目標設定やレビュー作成タスクを自動化
- 報酬変更の承認プロセスと同時に給与計算プロセスを直接反映
- 部門別・時間軸別・従業員属性別などのパフォーマンス評価の一元化
Rippling Performance Management Software | Rippling
これらを踏まえて当社では、以下の3つのレイヤーに分けてデータ基盤やシステムアーキテクチャを構築していきたいと考えています。
- Identity Layer:全従業員の属性・報酬・スキル情報
- Activity Layer:事業活動のログ(Salesforce, GitHub, Slack, Notion等)
- Intelligence Layer:上記を解析し、ボトルネック検知やアクションを自動化・サジェストするAI
各所に散らばるデータを集約し、そのデータ基盤の上でいくつものAIエージェントが走る世界です。
AI を前提に「組織マネジメント」を再設計する
1人のマネージャーがマネジメントできるのは7~10名が限界と言われています。それを超えると、「誰が何をしているか分からない」「コンディションのケアが行き届かない」といった問題が起きるからです。
個人的にこれまで経験してきた感覚としても、7名を超えると細やかなサポートはしきれないと思います。
しかし、集約されたデータ基盤があり、AIを無尽蔵に走らせることができると仮定するとどうでしょうか。
- 日々のSalesforceやGitHubのログから、AIが進捗とボトルネックをサマリし、マネージャーに通知 → 進捗の確認負担を減らすことができます。
- 組織図計画・人員計画・採用計画が連動し、その充足率が自動集計・可視化される → 組織計画の達成にまつわるエクセルワークを減らすことができます。
- 採用時の評価と期待値を前提に、個人に合わせたナレッジ・オンボーディングエージェントが新入社員をサポート → オンボーディングに要する工数を減らすことができます。
情報の集約や作業などの管理コストを極限までAIにオフロードさせることで、マネージャーはより本質的な「事業課題の解決」や「メンバーの仕事への動機づけ」などの人間にしかできない価値のある業務に時間を使えるようになるはずです。
結果として、AIが従来のマネジメント業務をサポート・アシストすることで、少ないマネジメントリソースでより大規模かつ自律的な事業運営ができるようになると考えています。
このインフラを整えていくことが、AI Nativeな組織OSを作っていくということであり、HR Enabling部のミッションです。
実際に、この半期では評価プロセス領域におけるAI推進に取り組んでいます。
LayerXでは半年に一回人事評価プロセスがあり、全従業員が自己評価をまとめて提出し、マネージャーは評価フィードバックを作成してメンバーに戻します。どれだけ少なく見積もっても数十分は必要な作業であり、全社員の工数として計算すると膨大な時間が投下されています。
しかし、評価プロセスとはメンバーにとってもマネージャーにとってもその期間を振り返り、フィードバックし、今後の期待値を擦り合わせるという観点において、組織運営の根幹とも言えるものです。だからこそ、AIによって作業工数は削減しながら、事業やメンバーの未来の成長にフォーカスできる環境を整えていく必要があります。
まだまだ試験運用レベルではありますが、エンジニアであればGitHubのデータを元に活動内容をサマリ・レビューをしたり、セールスであればSalesforceのデータを元に営業活動を定量・定性ともにサマリ・レビューをするといった機能を開発しています。
過去の活動自体はAIが自動的に事実ベースのデータ(FACT)として集め、マネージャーは、「それが事業にどう貢献したか」「メンバーにとってどんな意味があり、次に何を目指していくか」という意味づけと対話に時間を使えることが重要だと考えています。
評価プロセスは入口ですが、このような取り組みを通じて、AIを前提とした組織マネジメントのあり方を0ベースで模索し、事業成長を支えるインフラを作っていきます。